都市部から地方に移住する「IターンUターン転職」が注目されていますが、その一方で「地方転職は難しい」とも言われています。
自然豊かなところでの理想の暮らしを思い描いてみても、現役時代は難しいと諦めてしまう方もいるかもしれません。
しかしインターネットが普及した昨今では、地方企業でも発信力を持つことができ、IターンUターン転職を歓迎する企業や自治体も増えてきました。
上手に情報を収集すれば地方転職も難しくないと言えるでしょう。
今回は、IターンUターン転職歓迎の募集が多い業種と、活用したい自治体の就職支援についてご紹介します。
IターンUターン転職って?

地方移住で転職を考える際に出てくる「Iターン・Uターン・Jターン」という言葉。
Uターンはよく聞かれる言葉ですが、IターンやJターンって?という方もいるかもしれません。
まずはIターン、Uターン、Jターンとは何かをご説明します。
Iターン転職とは
「首都圏→地方へ転職」
Iターン転職とは、生まれ育った場所で働いた後、出身地ではない場所へ移住して働くことです。
卒業から就職、転職までの動きが一直線であるため、Iターンと呼ばれています。
Iターンのメリット
Iターン転職は、通勤に関するストレスや生活コストの軽減、子育てしやすい環境というメリットがあります。
しかし、縁もゆかりもない地域での移住になることが多いため、風習や人間関係に適応しなければなりませんが、自分が理想とする人生を実現できるチャンスもあります。
Uターン転職とは
「地元→首都圏→地元へ戻る」
Uターン転職とは、生まれ育った場所以外で働いたのち、再び生まれ故郷に戻って働くことを意味します。
地元の高校を卒業して、都市圏の大学へ進学・就職したあと、生まれ育った場所にある企業に転職することがほとんどです。
Uターンのメリット
Uターン転職のメリットは、生まれ育った環境で働けることが挙げられます。
慣れ親しんだ環境で働けると、ストレス軽減にも繋がるでしょう。
他にも、物価や家賃などのコストが東京など都市圏と比べると安価な傾向にあるため、ゆとりのある生活を送りやすいでしょう。
また、子育て世代が気になる待機児童も都市部と比べると少なく、子育てしやすい環境にあります。
結婚している人にとってUターンはどちらかの両親の近くに住めるため、身内からのサポートを受けやすいのもメリットです。
Jターン転職とは
「地元→首都圏→さらに別の地方へ移住」
Jターン転職とは、地方出身者が一度首都圏で就職し、地方に移住・転職することです。
地元から近い都道府県や同じ県内でも異なる市町村に移住する場合は、UターンではなくJターンとされています。
Jターンのメリット
Jターン転職も、通勤や生活コストの面でUターン・Iターン転職と同じようなメリットがあります。
「自分の出身県に近い場所へ移住すること」になるため、比較的地元に近い場所で生活可能です。
Uターン・Iターンのいいとこどりができる地方移住のスタイルといえます。
地方での転職が難しい理由

IターンUターン転職をしたい人は近年増加傾向と言われていますが、同じく言われているのが「地方転職は難しい」ということです。
どういった部分が難しいのか、ここでご説明していきます。
企業の数・求人数が少ない
地方転職が難しいといわれる最も大きな理由のひとつとして、首都圏に比べ求人数が少ないことが挙げられます。
都市と地方では人口も経済規模も違うため、求人数に差があるのは事実です。
しかし「求人数が少ない=就職ができない」というわけではありません。
なぜなら、地方は東京に比べて「有効求人倍率」が高いからです。
有効求人倍率とは、「ひとりの求職者につき、何件の求人があるか」を表す指標であり、数値が高いほど求職者には有利な環境ということになります。
たとえば、2023年9月の都道府県別有効求人数では、東京都が1.18であるのに対し、移住先で人気の長野県が1.58、福井県が1.42と、都市部を上回る数値が出ています。
このように地域によっては、しっかりと転職活動を行えば仕事が見つけやすいと言えるでしょう。
[参照]厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年9月分)」
情報収集が難しい
仕事を探し始めるとわかることですが、地方は求人情報をインターネットで集めようと思ってもあまり情報が出てこないことが多くあります。
これは第一次産業など地域の主要産業が、インターネットでの募集に慣れていないことが多いためです。
また、企業側も採用コストの面から、積極的にメディア広告を打ち出さないところもあります。
企業の情報へのアクセスのしづらさから、地方転職にハードルを感じてしまう人が多いのかもしれません。
インターネットと合わせ、ハローワークや自治体の移住定住窓口に問い合わせたりすることをおすすめします。
選べる職種や条件が少ない
前述したように、地方は首都圏と比べて企業・求人の数が少ないことから、選べる職種や条件が限られることも多いでしょう。
移住先の情報が不足している状態で、業種や職種を絞りすぎたり、条件にこだわりすぎると転職活動が上手くいかない原因となります。
その地域が強みとしている業種や、人手が不足している業界をリサーチするなど、あらかじめ地域の特性を理解しておくことで自分の希望条件とマッチした転職先を見つけられるようになるでしょう。
給料が安い傾向がある
地方は公共交通機関などを除いて全体的に物価が安いと感じることもあるでしょう。
しかし、その分給料は低く設定されており、都市部で同じ仕事をするよりも収入が減ることも珍しくありません。
実際、各都道府県別の平均年収の上位は、1位が東京都、2位は神奈川県、3位は大阪府となっており都市部が占めていることがわかります。
事前に給料に関しては確認をとり、自分が生活できる収入であるかどうかの確認をしておきましょう。
IターンUターン成功の秘訣

近年、全国的に地方移住を希望する人が増えていることを受け、Iターン・Uターンを支援する会社が増加しています。
ここではIターン・Uターン転職の成功の秘訣をご紹介します。
Iターン・Uターンの支援のある企業を探す
Iターン・Uターンの支援が充実している企業を選べば、転職後の生活が楽になります。
Iターン・Uターン希望者向けに支援金を給付したり、住居を探す手伝いをしたりする企業も増えてきています。
Iターン・Uターン転職を行う際は、支援がある企業を積極的に選びましょう。
自治体の支援サポートを受ける
自治体による支援サポートを受けるということもおすすめです。
地方によっては、企業と自治体が連携してIターン・Uターン転職を支援しているところもあります。
自治体のサポートは無料で受けられることが多いので、ぜひ積極的に活用してみてください。
知り合いやつながりを作る
地方転職を成功させる秘訣として、その地域に知り合いやつながりを作っておくと良いでしょう。
地域の企業では、情報サイトやハローワークなどで求人広告を出すのではなく、知り合いの紹介などで人を探すことがよくあります。
さらに、最近ではSNS上で求人を応募するケースも増えています。
そのため、希望職種に関する知り合いや地方のつながりを作っておくことで、思いがけない求人情報に出会ったり就職できるチャンスがあるでしょう。
今までの経験やスキルを整理する
転職先を探す上で、今までの経験やスキルをきちんと整理しておくことが重要になります。
なんとなくのビジョンで転職をすると、いざ働き始めてからミスマッチを感じてしまう可能性があります。
特に地方のUターン・Iターン転職では、都市部の経験やキャリアを期待している場合も多く、どのようなことをしてきたのかをきちんと説明できることが重要です。
これまでどのような仕事に携わり、どういった行動を起こしてきたかを整理し、自分の理想の働き方や強み・弱みを言語化しましょう。
IターンUターン募集が多い業種は?

IターンUターン転職する上で、今と同じ職種や条件にこだわりすぎると転職が難しい場合もあると前述しました。
そういった場合に新天地で新しい職業に就くというのも選択肢の一つとして良いかもしれません。
ここでは、地方でIターンUターン募集の多い業種をご紹介します。
建築業
建築業は、もっともIターン・Uターン転職を歓迎している業種の一つかもしれません。
建築業といっても仕事内容は多岐に渡り、建築や採掘を行うスタッフや土木技術職、現場作業員などが該当します。
中には事務職や営業職を募集している企業もあり、土木の専門知識や経験が不問なところも多いです。
また、ガスや電気などと同様に人の暮らしに直接関わる仕事なので、強いやりがいを求める人にもおすすめです。
製造業
地方の産業で製造が盛んというところも多く、人手がいることからIターン・Uターンを歓迎している企業が多くあります。
製造業は、素材を加工・組み立てし、製品として販売して利益を得る業態を指します。
また、製造業が扱う製品は、自動車や電気機器、医薬品や化学素材、食品など多岐にわたります。
なお、1次産業とは農業や水産業などを指しますが、製造業は建設業などと共に2次産業に該当します。
サービス業
サービス業もIターン・Uターンの人材を募集していることが多い業種です。
サービス業とは顧客に対して、形のない「サービス」という商品を提供する職業のことを指します。
コールセンタースタッフや商品を提案するショップの販売員、車や家の貸し出しを行うレンタル業など、幅広い仕事が含まれます。
専門的な資格や知識がなくても応募できることが多いため、サービス業を経験したことがない人でも挑戦しやすい仕事と言えます。
情報通信業
Iターン・Uターンを募集している企業で、最近多くなっているのが情報通信業です。
情報通信業と一口にいっても、携帯電話会社やWebコンテンツ提供会社、広告制作会社など、たくさんの企業があります。
また、情報通信業には全国的な大企業が多いため、雇用や収入が安定しているという特徴もあります。
医療・介護
Iターン・Uターン転職でも、看護師や准看護師、老人ホームで働く介護士、児童養護施設のスタッフなどが募集されています。
全国的に医療・介護人材は不足していると言われ、地方でも常に求人が出ています。
看護師や介護士など専門的な資格が必要な仕事もありますが、食事を作るスタッフや清掃員など、特別な知識が必要ない求人も多いのが特徴です。
企画・マーケティング
こちらは業種ではありませんが、昨今企画・マーケティングの地方求人は増加傾向にあります。
企画・マーケティングは、企業が新商品を開発したり商品の改良を行ったりする際に必要となる情報を収集し、集めた情報をもとに計画を作る職種です。
インターネットが普及し、商品やサービスをネットショップで販売することも当たり前となった今、地方でも発信力をもって成長している企業はたくさんあります。
そういった地方企業が増えてきたことから、都市部で働いてきた人に都会の広告や情報を聞きたいという企業も多く、積極的にIターンUターン募集を行っています。
Iターン転職に活用したい自治体の就職支援

Iターン・Uターン転職は同時に住まいを変えることでもあるため、どうしても出費は避けられません。
しかし、地方自治体では移住や就業を促進するため、様々な支援制度を設けています。
ここでは、Iターン・Uターン転職をする上で知っておきたい支援制度の一部をまとめました。
①UIターン支援奨励金(群馬県・館林市)
■概要
市外からの市内に移住した対象労働者1人につき、労働者分10万円を支援。
※注意:館林市デジタル地域通貨「ぽんちゃんPay(ぽんちゃんペイ)」での支給となります。
■対象者
- 雇用開始前後3か月以内に本市に居住し、その後6か月以上居住50歳未満の方
- 勤務場所が市内の事業所の方
- 労働者派遣事業者により派遣される派遣労働者でない方
- 雇用する事業者又は関連会社との間で過去3年間に離職、または再雇用や異動で市内事業所に転勤した方でないこと
- 館林市UIターン支援奨励金及び館林市障がい者雇用奨励金の支給対象労働者になったことがない方
- 2年以上市外に住民登録されていた方
- 賃金が月給で支給され、且つ6か月以上継続して正規雇用されている50歳未満の方
■支援内容
・労働者:10万円
【こども加算分】
18歳以下の者がともに転入した場合1人につき5万円(上限10万円)
・事業者:5万円
②就業体験活動費支援事業補助金(福島県・伊達市)
■概要
伊達市内の教育保育・福祉事業所(園や福祉施設など)で就業体験した際の、活動経費(宿泊費・交通費等)に対して2/3の額(上限5万円)を補助。
※2日以上就業体験をした場合が対象です。
■対象者
- 福島県外に住む保育・福祉職の資格をお持ちの方
- 申請年度内に保育・福祉職の資格を取得予定の方
■支援内容
民間賃貸住宅の家賃の2/3の額を最大24か月分補助
③益子町雇用支援奨励金制度(栃木県・益子町)
■概要
35歳未満の若年者の正規雇用拡大と、益子町への定住を支援するため、若年者と企業へ、奨励金を支給。
■対象者
- ハローワークに申込みをした求人により若年者を正規雇用して3年経った事業主
- 町内事業所に3年間就業した若年者
■支援内容
1.若年者1人につき10万円
2.10万円
④就職定住促進事業補助金(富山県・黒部市)
■概要
市内事業所に就職し、就職を契機に市内へ居住した方またはその家族に対する支援。
■対象者
1.市内事業所に就職(※)し、以下の全てにあてはまる方
- 勤務期間が6か月を経過し、引き続き市内に住所を有する方
- 期間の定めのない雇用契約をした方(正規雇用者)
- 就職前後1年以内に転入された方
- 初めて市内に住所を有した方(初居住者)
- 市外に2年以上住所を有した後、再び市内に住所を有した方(Uターン者)
2. 1.に該当する方と同居かつ就職していない18歳以下の家族
■支援内容
1.15万円
2.5万円
⑤地方就職支援コーナー(東京・大阪)
ハローワークでは地方就職に向けた職業相談・職業紹介を行っており、その拠点として地方就職支援コーナーが東京と大阪の2か所があります。
地方就職支援コーナーでは、専門の相談員が、就職を希望する地域等の生活関連情報(住宅、教育、医療等)を用いた、きめ細かな職業相談・職業紹介を行っています。
【東京】ハローワーク飯田橋 地方就職支援コーナー交通会館分室
他にも地方の就活支援制度を検索
LO活は「Local+就活」の意で、地方就職を考える若年層を応援する厚生労働省のプロジェクトです。
全国46の自治体(道府県)・200以上の学校との連携により、地方就職に特化した情報や就活助成・支援制度を検索することができます。

まとめ
今回は、IターンUターンの募集が多い業種と、自治体の就職支援についてご紹介しました。
- 地方は求人数は少ないが、有効求人倍率は高い
- IターンUターン募集の多い業種を調べて転職を有利に
- 自治体や企業によって転職支援制度を設けているため情報をチェック