近年、二拠点生活や関係人口の拡大に注目が集まっています。
その流れの中で、政府が2025年6月中に決定するとしている「ふるさと住民登録制度」は、地域の関係人口を可視化し支援することで、地方の活性化につなげる目的があります。
今回は、この制度の概要や背景、そしてすでに自治体が取り組む先行事例もご紹介します。
政府が進める「ふるさと住民登録制度」とは?

政府は2025年6月に「ふるさと住民登録制度」の創設を正式表明し、10年で1,000万人の登録を目指す方針です。
この制度は、現在の住民票のある「本拠地」とは別に、「継続的に関わる地域」として別の自治体に住民登録できる仕組みを目指しています。
地域とつながる「第2の住民票」
「ふるさと住民登録制度」は、スマホアプリ等を通じて、誰でも手軽に登録できる仕組みの導入を想定しています。
利用者側は関係を築きたい地域に対して「ふるさと住民」として申請します。
登録が承認されると、いわば“第2の住民票”が発行され、デジタル会員証のように活用することができます。
これにより、利用者は地域の各種情報や行政サービスの提供を受けられるようになります。
この制度の大きな特徴は、住んでいなくても地域に関われるという点にあります。
観光客やふるさと納税者ではなく、地域に継続的に関心を寄せ、何らかの形で参加・貢献している人を「関係人口」として見える化しようとする取り組みです。
制度設計の背景
日本では少子高齢化と都市集中が進み、地域活力の低下が大きな課題となっています。
そのため従来の「移住促進」では限界があり、住民票を移さなくても地域とつながれる仕組みが求められてきました。
そんな中、テレワークや副業・兼業の普及など、ここ数年でライフスタイルが変化してきました。
政府はこの流れを受け、「都市と地方の支え合い」を制度に取り入れようと考えています。
地域の担い手を「関係人口」から育てる
この制度の最大の目的は、地域に定住する人だけでなく、外から支える人々――すなわち「関係人口」を拡大し、将来的な地域の担い手とすることです。
政府は、今後10年間で延べ1,000万人の登録を目指しており、最終的には「第2住民」の累計登録数を1億人規模にする構想を描いています。
二拠点生活者にとってのメリットは?

都市と地方を行き来する二拠点生活において、「関係人口」として地域と継続的につながることにはさまざまなメリットがあります。
地域との“つながり”が生活の幅を広げる
関係人口として登録されることで、地域の人々との関係が築きやすくなります。
観光で一時的に訪れるだけでは得られない、地元の人たちとの信頼関係やネットワークを構築できるのが大きな魅力です。
例えば、季節ごとに滞在する「季節移住」や、地域行事・ボランティアへの参加を通じて、地域にとっても“顔の見える存在”となることができます。
これにより、第二のふるさととしての安心感が育まれます。
情報・サポート・制度の恩恵が受けられる
関係人口として登録しておくことで、地域の行政や団体からの情報提供が受けられます。
イベント案内や観光だけでなく、災害時の連絡体制や福祉・医療に関するサポート窓口の案内など、安心して滞在できるための支援を受けられる可能性があります。
また、空き家バンクの優先紹介や地域でのサブスクリプションサービス、地元の産品割引など、関係人口向けの特典やサービスも期待できます。
単なる「来訪者」では得られない、参加者としての恩恵を享受できる点が魅力です。
将来の「移住予備軍」としての準備にもつながる
関係人口として地域と関わることで、将来的な移住に向けた「お試し移住」が可能になります。
いきなり移住するのではなく、まずは短期間滞在して地域の生活を体験できるため、自分や家族に合った地域かどうかを見極めることができます。
また、子育てや老後のセカンドライフの候補地として、実際の地域との接点を持っておくことは大きな安心材料となります。
情報だけではわからない「暮らしのリアル」を知ることで、移住へのハードルが下がり、より現実的な選択肢として地域との関係が深まっていくでしょう。
自治体主導「ふるさと住民票®」とは?

自治体が独自に実施してきた先行施策
政府が発表している「ふるさと住民登録制度」とは異なる施策として、「ふるさと住民票®」があります。
「ふるさと住民票®」は、2016年に島根県海士町や高知県四万十町などで始まった自治体独自の登録制度です。
郵送や窓口で登録し、地域のイベント参加や情報提供を通じて関係人口の育成を図ってきました。
民間団体「構想日本」の提唱により、現在、全国で12自治体が導入しています。
政府の制度との違い
項目 | ふるさと住民票® | ふるさと住民登録制度 |
---|---|---|
主体 | 自治体独自+民間 | 政府(総務省) |
対象 | 数千人規模 | 1000万人〜全国規模を想定 |
登録方法 | 郵送・窓口中心 | オンライン登録を想定 |
目的 | 地域との関係構築 | 財政制度にも反映を検討中 |
このように、「ふるさと住民票®」は地域独自の取り組みであるのに対し、「ふるさと住民登録制度」は全国規模で制度化を目指す政府主導の施策です。
ふるさと住民に関する独自施策を行っている自治体例

北海道ニセコ町|ふるさと住民票®
ニセコ町ふるさとづくり寄付(ふるさと納税)で1万円以上の寄付、且つふるさと住民票を希望、登録申請することでカードが交付されます。
交付されたカードを提示することにより、ニセコ町の対象施設を町民料金で利用することができます。
■特典
- ふるさと住民カード「ニセコアンカード」の発行
- まちのホームページを通じで、町の情報をお届け
- 公共施設の町民料金での利用
茨城県行方市|ふるさと住民票®
行方市のふるさと住民票は、行方市に関心または愛着のある市外在住者で、年齢、性別および国籍は問わずに登録することが可能です。
また、登録・年会費などは無料です。
■特典
- ふるさと住民カードの発行
- 市内公共施設の市民料金での利用
- ふるさと納税返礼品のご紹介(年1~2回)
- 「行方市体験ツアー」企画(詳細未定)

埼玉県秩父郡小鹿野町|ふるさと住民登録制度
小鹿野町にふるさと納税をすると「小鹿野町ふるさと住民カード」が交付されます。
小鹿野町の対象施設で交付されたカードを提示することにより、特典を受けることができます。
※特典は随時更新します。
■特典
- 道の駅両神温泉薬師の湯→(特典内容)入館料町民価格
- おがの化石館→(特典内容)入館料20%割引
「ふるさと住民登録制度」がもたらす未来とは?

地域と都市を行き来する暮らしが当たり前に
出張やリモートワークの合間に「もう一つの居場所」を持てる時代がやってきます。季節に応じて住み分けるライフスタイルが現実的になり、観光から関係人口、さらには定住や起業へと関わりが深まる流れが生まれます。
自治体と住民が“つながり続ける”関係へ
関係人口を正確に把握することで、自治体はきめ細かなサービスを提供可能になります。教育、医療、子育て、災害支援などの分野で、都市在住者も地域からの支援を受けられる時代となるでしょう。
「選ばれる地域」になるための競争が活発化
登録者数に応じた財政支援が進み、自治体間で魅力づくりの競争が活発になります。移住支援や空き家活用、地域参加型サービスの充実が期待されます。
まとめ
今回は、この制度の概要や背景、そしてすでに自治体が取り組む先行事例もご紹介しました。
- 「ふるさと住民登録制度」は、今後の制度設計により、都市に住みながら地域と関わる新たな形を実現
- すでに始まっている自治体の取り組み(ふるさと住民票®)も活用可能
- 自分に合った地域との関わり方を探す第一歩に