働き方や生活様式の選択肢が増えた昨今、地方移住や二拠点生活に関心を持つ30~50代の現役世代が増えています。
しかし、理想のライフスタイルを実現するうえで多くの方が直面するのが「仕事」に関する不安です。
移住の場合は転職が視野に入ってきますので、自分のスキルが活かせないのではないか、収入が減ってしまうのではないかといった懸念がつきまといます。
また、二拠点生活を検討している人にとっては、2つの拠点の移動費や生活維持費が増えるため、収入増を考えたいところですよね。
そこで注目されているのが、「リスキリング(学び直し)」です。
今回は、仕事の選択肢を広げるリスキリングと、活用できる公的支援制度をご紹介します。
地方での仕事探しに潜む現実と課題

地方移住や二拠点生活を検討する際、多くの方がまず気にするのが「住まい」ですが、実際には「安定した収入を得られるかどうか」がより重要な課題となります。
特に、現役世代の30~50代にとっては、移住後の仕事環境が生活の基盤を左右するため、事前の検討が不可欠です。
地方は都市部に比べて物価や家賃が安い傾向にありますが、その分、求人数や職種の選択肢は限定的です。
大企業の支社や本社が少なく、製造業や建設業、医療・介護といった地域に根ざした業種が中心となります。
これらは必ずしも都市部での経験やスキルがそのまま活かせる仕事とは限りません。
さらに、年齢が上がるにつれて新しい職場への採用のハードルも上がりがちです。
40代以降では即戦力を求められる傾向が強く、異業種への転職は簡単ではありません。
また、地縁や人脈が乏しい地域に移住する場合、情報収集や就職活動も思うように進まないケースがあります。
こうした背景の中で、いかに自分の強みを活かし、かつ地域ニーズに合った形で働き方を再構築できるかが鍵になります。
その手段として、今注目されているのが「リスキリング」です。
リスキリングとは「学び直し」

リスキリング(Reskilling)とは、時代や環境の変化に合わせて、新たな職種や業務に対応するためにスキルを学び直すことを意味します。
主に企業の人材育成施策としても注目されている考え方ではありますが、個人にとっても、ライフステージの変化やキャリアの転換を支える有効な手段となっています。
地方への移住や二拠点生活を考える際、新たな地域での転職やリモートワーク職への転職、また現職でのステップアップといった場合も、リスキリングは強力な選択肢となります。
特に以下のような分野では、地方でも人材ニーズが高く、リスキリングによって新たなキャリアを築きやすくなっています。
- IT、Web系
テレワークやフリーランスが可能で、地域に縛られない働き方が可能 - 福祉、介護、医療
高齢化が進む地域で常に人手不足 - 観光、地域創生
地元資源を活かした新しい事業が活発化 - 農業、林業
研修や支援制度も充実し、未経験者の受け入れ体制が整ってきている
これらの分野は、地方での需要があるだけでなく、国や自治体の支援制度を活用しやすいというメリットもあります。
オンラインで受講可能な講座も増えており、在職中でも自分のペースでスキルを習得することが可能です。
また、単に知識を得るだけでなく、資格取得やポートフォリオ制作、実践的なトレーニングなど、就業に直結しやすいカリキュラムが整っている点も特徴です。
これにより、異業種への転職や副業、現職でのステップアップ、さらにはフリーランスとしての独立も視野に入れることができます。
経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」

地方移住や二拠点生活を見据えて、キャリアの転換や副業、独立といった新しい働き方を考える方にとって、「学び直し」は欠かせません。
しかし、学習コストや就職支援の不安から一歩を踏み出せない方も多いのではないでしょうか。
そんな方におすすめなのが、経済産業省が推進する「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」です。
この事業は、働きながら新たなスキルを習得し、転職や副業など新たなキャリアを実現するための包括的な支援制度で、受講料の補助からキャリア相談まで、多面的なサポートが用意されています。
①受講→転職で、最大56万円まで補助
キャリアアップ支援事業に登録されている講座を修了し、実際に転職した場合、受講料の最大70%(上限56万円)までが補助されます。
※受講のみは講座費用の1/2相当、最大40万円まで。
例えば、80,000円の講座であれば、56,000円が支援対象となり、実質24,000円の自己負担で受講可能です。
費用面のハードルが大きく下がるため、子育て世帯や住宅ローンの返済などで学び直しに踏み切れなかった方にも適しています。
②キャリア相談・就職支援もセットで安心
「学んだ後、仕事が見つかるか不安」という方も多いはずですが、キャリアアップ支援事業ではキャリアアドバイザーによる相談支援や、求人紹介・企業とのマッチング支援もセットで提供されます。
初めて挑戦する分野でも、伴走型のサポートがあることで、転職活動や業務スタートの不安を大きく軽減できます。
③受講講座は実践型・需要の高い分野が中心
受講対象となる講座は、DX(デジタル技術)、デザイン、製造、建設、ビジネス、福祉など、社会や地域での需要が高い分野に特化しています。
講座の多くはオンライン対応で、在職中でも夜間や土日を利用して学習可能です。
とくに地方で活かせる「在宅ワーク型職種(Web、デジタルマーケティング、動画制作など)」や「資格取得型職種(介護、福祉関連)」の講座が充実しており、実践的なスキルを効率的に身につけられます。
厚生労働省「教育訓練給付金」

経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は、講座の事業者を通した支援策となりますが、受講する個人に給付される制度もあります。
それが、厚生労働省が提供している「教育訓練給付金」です。
これは、指定された講座を受講した際に、受講費用の一部が国から支給される制度で、特に転職や資格取得を目指す社会人にとって心強い支援となっています。
①講座区分ごとに異なる支給率・上限
教育訓練給付金は、受講する講座の内容や目的によって3つの区分に分かれています。
- 一般教育訓練給付金
受講費用の20%(上限10万円) - 特定一般教育訓練給付金
特定講座に限り支給率20%、上限は同じ - 専門実践教育訓練給付金
最大70%(年間上限112万円 × 最長3年)
専門実践型では、看護師、介護福祉士、保育士など、地方でも需要が高い職種に対応する講座が多く、受講後の資格取得や就職によって追加の支援給付(最大16万円)も受けられます。
②多様な分野の講座に対応、選びやすい制度
この制度では、全国の専門学校、大学、民間スクール、eラーニング事業者が提供する、数千件を超える講座が対象となっています。
ジャンルもIT、ビジネス、医療、建築、福祉、語学など非常に幅広く、自分のキャリアやライフスタイルに合った内容を柔軟に選べるのが特徴です。
特に地方移住後の就職や副業を見据えた「資格取得講座」や「実務スキル特化型コース」にも対応しており、年齢や職歴を問わずキャリア再構築を図ることができます。
③ハローワークを通じた手続きで安心・確実
申請は最寄りのハローワークで行いますが、事前相談や講座選定のサポートも受けられるため、初めて制度を利用する方でも安心です。
講座の検索や給付対象の確認も、公式サイトやパンフレットを通じて簡単に行えます。
支援制度を活用したリスキリングの進め方

STEP1 目的を明確にする
リスキリングを始める前に、まず「なぜ学ぶのか」「どのような仕事に就きたいのか」を明確にすることが大切です。
地方移住や二拠点生活を検討している方であれば、現地でどのようなスキルが求められているか、また自身がどのような働き方をしたいのかを考えることが出発点になります。
たとえば、地方で需要が高まっている「IT系リモートワーク」や「福祉関連の専門職」など、自分の関心と地域ニーズが重なる分野を探ることがポイントです。
STEP2 利用可能な制度を確認する
目的が定まったら、次に自分が利用できる支援制度を確認しましょう。
以下の2つの制度は、働きながらリスキリングに挑戦したい方に特におすすめです。
- 経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」
幅広い分野の実践的講座を対象に、最大70%の受講料補助を受けられます。
さらに、キャリア相談や転職支援も一体的に提供される点が大きな魅力です。 - 厚生労働省「教育訓練給付金」
資格取得などに対応した講座が対象で、条件を満たせば受講料の20〜80%(最大192万円)が支給されます。
STEP3 講座を選ぶ・申し込む
制度を確認したら、具体的な講座を選びます。
経済産業省の事業では公式ポータルサイトに掲載されている講座一覧から、厚生労働省の給付金では「教育訓練給付制度検索システム」から対象講座を調べることが可能です。
在宅で学べるオンライン講座も多く、働きながら無理なくスキルアップできる講座を選ぶと良いでしょう。
STEP4 学習を継続し、キャリアにつなげる
受講が始まったら、学習を習慣化することが重要です。
週末や平日の夜など、時間を確保して継続的に取り組みましょう。
学んだスキルを生かすには、学習後のキャリア設計も欠かせません。
経済産業省の制度では、キャリア相談や転職支援も提供されており、移住後の仕事探しにも活用できます。
支援制度を上手に使いながら、自分らしい働き方・暮らし方を目指して一歩を踏み出しましょう。
まとめ
今回は、仕事の選択肢を広げるリスキリングと、活用できる公的支援制度をご紹介しました。
- 仕事が不安で移住をためらっている方こそ、リスキリング
- リスキリングと給付金支援は、経済的・精神的な安心材料に
- 自然に囲まれた暮らしを手に入れるために、今こそ準備を始めよう