都市と地方を行き来する「二拠点生活」は、地方との関わり方の一つになっています。
これまで二拠点生活の推進というと、国や自治体による移住支援やお試し住宅などが中心でした。
しかし最近では、航空会社などの民間企業も二拠点生活を支援するサービスを展開しています。
こうした動きは、二拠点生活が単なる「個人のライフスタイル」ではなく、「国・自治体・民間企業が連携して環境を整えていく」段階に入ったと言えるかもしれません。
今回は、航空会社の取り組みを例に、二拠点生活を取り巻く民間企業の動きを解説します。
二拠点生活は「個人の選択」から
「地域政策」へ

国が二拠点生活を推進するようになった背景
二拠点生活(二地域居住)は、以前から個人のライフスタイルとして存在していました。
しかし近年は、人口減少や地域の担い手不足といった課題への対応策として、国が「広域的地域活性化基盤整備法」を2024年5月に成立し、政策として推進しています。
二拠点生活(二地域居住)とは、都市と地方など2つの地域に生活拠点を持ち、行き来しながら暮らすスタイルです。
完全に地方へ移住するのではなく、現在の仕事や生活を維持しながら地方と継続的に関わることができるため、地方への新しい人の流れをつくる方法として注目されています。
国土交通省では、二拠点生活を促進するため、自治体や民間事業者などが連携する取り組みを支援しています。
さらに「全国二地域居住等促進官民連携プラットフォーム」を設け、自治体と民間企業が情報共有やマッチングを行える環境も整えています。
自治体だけでは解決できない課題もある
二拠点生活を始めるには、地方に住む場所があれば十分というわけではありません。
例えば、
- 都市と地方を行き来するための交通手段
- 滞在する住まい
- 現地での仕事や副業
- 地域とのつながり
- 地域の情報収集
- 滞在中の生活サポート
など、さまざまな要素が必要になります。
これらを自治体だけですべて用意するのは簡単ではありません。
そこで重要になってくるのが、それぞれの分野を得意とする民間企業との連携です。
実際、国の官民連携プラットフォームには、住まい、地域交通、仕事・副業、テレワーク、地域交流など、さまざまな分野の取り組みが掲載されています。
大手航空会社も二拠点生活を支援

民間企業による二拠点生活支援の中でも、分かりやすい例が交通会社です。
ここでは、大手航空会社のANA、JALの取り組みについてご紹介します。
ANA:20自治体で「お試し二地域プラン」
ANAとANAあきんどは、二拠点生活を支援するポータルサイト「BLUE SKY LIFE」を展開しています。
BLUE SKY LIFEは、地方での暮らしを体験できる各地域のプログラムを提供、移動時の経済的負担を軽くするため、ANA SKYコインを活用した航空移動費のサポートを行うサービスです。
「お試し二地域プラン」の対象地域は2026年9月現在、1道8県20自治体となっています。
「地方で暮らしてみたいけれど、まずは実際に通ってみたい」という人にとって、二拠点生活を試すにはぴったりのサービスです。
JAL:全国36地域で二拠点生活を支援
JALも二拠点生活を支援する取り組みを進めています。
2026年7月から始まった「つながる、二地域暮らし2026」では、対象地域を全国36地域へ拡大。
参加者は地域での体験などを通じて二拠点生活を試すことができ、JALマイルの積算によって移動費の負担を抑えられる仕組みになっています。
さらに2026年度からは、地域と二拠点生活のマッチングを促進する新会社「KANTSUNA」が運営事務局を担当しています。
単に「飛行機で地方へ送る」というだけでなく、地域と二拠点生活をつなぐところまで支援する取り組みになっています。
本記事掲載時点では募集が終了となっていますが、次の募集を狙ってみるのも良いかもしれません。
また、JALでは航空券と住居を組み合わせ、コンシェルジュが滞在をサポートする「JAL 2地域居住クラブ」も行っています。
二拠点生活を支援する民間企業が増加

ANAやJALの事例を見ると、「交通会社が地方への移動を安くする」という話に見えるかもしれません。
しかし、現在進んでいるのは交通分野だけの取り組みではありません。
住まいを探しやすくするサービス
二拠点生活を始める際、大きなハードルの一つになるのが「地方でどこに住むか」です。
そこで、空き家や遊休不動産などを活用し、二拠点居住者と住まいをつなぐ取り組みが進んでいます。
例えば、2026年度の官民連携事例には、LIFULLによる空き家マッチングを活用した取り組みが含まれています。
また、楽天グループ、タイミー、LIFULLなどの民間企業が連携し、「働く・滞在・空き家活用」の3つを軸に二拠点生活を促進する実証も行われています。
地方での仕事・副業を支援するサービス
二拠点生活では、「地方に住む」だけでなく、「地方で何をするか」も重要です。
最近は、都市部での本業を続けながら、地方企業や自治体の仕事に副業として関わる仕組みも登場しています。
例えば、官民連携プラットフォームでは、大手企業の社員が副業として地域団体や自治体のプロジェクトに継続的に関わりながら、二拠点生活(二地域居住)につなげるモデルの実証が行われています。
また、秋田県五城目町・男鹿市では、企業・法人単位での二拠点生活や、公教育をきっかけとした二拠点生活のモデルづくりも進められています。
これからは「地方へ移住するために仕事を変える」のではなく、今の仕事を続けながら地方と仕事でつながるという選択肢も増えていきそうです。
地域との交流や体験を提供するサービス
二拠点生活では、住まいや仕事だけでなく、「地域にどう馴染むか」も重要なポイントです。
そのため、地域体験や交流の機会を提供したり、二拠点居住者と地域をつなぐ役割を民間企業が担ったりする取り組みも生まれています。
JALが行っている「つながる、二地域暮らし2026」もその一例です。
二拠点生活に必要なのは「場所」だけではありません。
その地域で人とつながり、継続的に関わっていくための環境も少しずつ整えられています。
企業の参入で二拠点生活はどう変わる?

民間企業の関わりが増えることで、二拠点生活をしたい人にとっても選択肢が広がっています。
「移動」の選択肢が増える
二拠点生活では、都市と地方を何度も行き来する必要があります。
そのため、交通費や移動時間は継続するうえで大きな負担になります。
ANAやJALの取り組みのように、移動費を抑えたり、二拠点生活者向けの移動サービスを提供したりする動きが広がれば、「地方に通いたいけれど交通費が気になる」というハードルを下げられるでしょう。
「まず試してみる」がしやすくなる
二拠点生活に興味があっても、最初から家を購入したり、長期滞在を決めたりするのはハードルが高いものです。
そこで、「お試し二拠点生活」のような仕組みがあると、まずは短期間その地域で暮らしてみることができます。
実際に暮らしてみれば、
- 交通の便利さ
- 買い物のしやすさ
- 仕事のしやすさ
- 地域の雰囲気
- 自分の生活スタイルとの相性
など、旅行だけでは分からないことも見えてきます。
地域とのつながりをつくりやすくなる
「地方に家を持つこと」と「地域に暮らすこと」は、必ずしも同じではありません。
二拠点生活を続けるには、地域の人と関わったり、仕事や地域活動に参加したりする機会も大切です。
民間企業が自治体と連携して地域体験やマッチングの機会をつくることで、「ただ地方に滞在する」から「地域と関わりながら暮らす」ことが可能となるでしょう。
二拠点生活に必要なサービスを選べる
これまで二拠点生活を始めるには、自分で一つずつ環境を整える必要がありました。
住まいを探し、交通手段を考え、仕事を調整し、地域との接点も自分でつくる。
しかし現在は、それぞれの課題に対して民間企業や自治体が用意したサービスから選択することが可能となってきています。
すべてを一人で解決するのではなく、
「自分に必要なサービスだけを利用する」
という二拠点生活の始め方もできるようになってきました。
国・自治体だけでなく民間企業も
二拠点生活を支える時代へ

ここまで紹介した動きを整理すると、二拠点生活を取り巻く環境が少しずつ変わっていることが分かります。
国は制度や仕組みを整える
国は、二拠点生活を促進する制度や支援策を整え、自治体や民間企業による取り組みを後押ししています。
また、「全国二地域居住等促進官民連携プラットフォーム」を通じて、自治体と民間企業が連携するための場も整えています。
自治体は地域の受け入れ体制をつくる
一方、自治体は地域側の受け入れ体制を整えています。
例えば、以下のようなものが挙げられます。
- お試し居住
- 空き家活用
- 地域交通
- 地域との交流
- 副業・就業支援
- テレワーク環境
民間企業は暮らしに必要なサービスを提供
そして、その地域で実際に二拠点生活をするためのサービスを担うのが民間企業です。
交通、住まい、仕事、滞在、地域交流など、それぞれの分野で企業が持つサービスやノウハウを活用できます。
つまり、現在の二拠点生活をとりまく環境は、
国が制度を整える
↓
自治体が地域の受け入れ環境を整える
↓
民間企業がサービスを提供する
↓
二拠点生活をしたい人が利用する
という形で、以前に比べ少しずつ整えられているといえるでしょう。
まとめ
今回は、航空会社の取り組みを例に、二拠点生活を取り巻く民間企業の動きを解説しました。
- 二拠点生活は国・自治体が推進する地域政策の一つになっている
- ANA・JALなど、民間企業にも二拠点生活を支援する動きが広がっている
- 移動・住まい・仕事・地域交流など、二拠点生活を支えるサービスの選択肢が増えている

